のためにすぐに消えてしまいました。
 その代り、東の黒い山から大きな十八日の月が静かに登って来たのです。
 見ると家の前の広場には、太い薪が山のように投げ出されてありました。太い根や枝までついた、ぼりぼりに折られた太い薪でした。お爺さんはしばらく呆《あき》れたように、それをながめていましたが、俄《にわ》かに手を叩《たた》いて笑いました。
「はっはっは、山男が薪をお前に持って来てくれたのだ。俺《おれ》はまたさっきの団子屋にやるということだろうと思っていた。山男もずいぶん賢いもんだな」
 亮二は薪をよく見ようとして、一足そっちへ進みましたが、忽《たちま》ち何かに滑ってころびました。見るとそこらいちめん、きらきらきらきらする栗の実でした。亮二は起きあがって叫びました。
「おじいさん、山男は栗も持って来たよ」
 お爺《じい》さんもびっくりして言いました。
「栗まで持って来たのか。こんなに貰《もら》うわけにはいかない。今度何か山へ持って行って置いて来よう。一番着物がよかろうな」
 亮二はなんだか、山男がかあいそうで泣きたいようなへんな気もちになりました。
「おじいさん、山男はあんまり正直でかあい
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