った一人、いろりに火を焚《た》いて枝豆をゆでていましたので、亮二は急いでその向う側に座って、さっきのことをみんな話しました。お爺さんははじめはだまって亮二の顔を見ながら聞いていましたが、おしまいとうとう笑い出してしまいました。
「ははあ、そいつは山男だ。山男というものは、ごく正直なもんだ。おれも霧のふかい時、度々山で遭ったことがある。しかし山男が祭を見に来たことは今度はじめてだろう。はっはっは。いや、いままでも来ていても見附からなかったのかな」
「おじいさん、山男は山で何をしているのだろう」
「そうさ、木の枝で狐《きつね》わなをこさえたりしてるそうだ。こういう太い木を一本、ずうっと曲げて、それをもう一本の枝でやっと押えておいて、その先へ魚などぶら下げて、狐だの熊《くま》だの取りに来ると、枝にあたってばちんとはねかえって殺すようにしかけたりしているそうだ」
 その時、表の方で、どしんがらがらがらっという大きな音がして、家は地震の時のようにゆれました。亮二は思わずお爺さんにすがりつきました。お爺さんも少し顔色を変えて、急いでランプを持って外に出ました。
 亮二もついて行きました。ランプは風のためにすぐに消えてしまいました。
 その代り、東の黒い山から大きな十八日の月が静かに登って来たのです。
 見ると家の前の広場には、太い薪が山のように投げ出されてありました。太い根や枝までついた、ぼりぼりに折られた太い薪でした。お爺さんはしばらく呆《あき》れたように、それをながめていましたが、俄《にわ》かに手を叩《たた》いて笑いました。
「はっはっは、山男が薪をお前に持って来てくれたのだ。俺《おれ》はまたさっきの団子屋にやるということだろうと思っていた。山男もずいぶん賢いもんだな」
 亮二は薪をよく見ようとして、一足そっちへ進みましたが、忽《たちま》ち何かに滑ってころびました。見るとそこらいちめん、きらきらきらきらする栗の実でした。亮二は起きあがって叫びました。
「おじいさん、山男は栗も持って来たよ」
 お爺《じい》さんもびっくりして言いました。
「栗まで持って来たのか。こんなに貰《もら》うわけにはいかない。今度何か山へ持って行って置いて来よう。一番着物がよかろうな」
 亮二はなんだか、山男がかあいそうで泣きたいようなへんな気もちになりました。
「おじいさん、山男はあんまり正直でかあい
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