狐はちょっと眼を円くしてつっ立って音を聞いてゐましたがいきなり残りの葡萄の房を一ぺんにべろりとなめてそれから一つくるっとまはってバルコンへ飛び出しひらっと外へ下りてしまひました。仔牛はあわてて室の出口の方へ来ました。
「おや、牛の子が来てるよ。迷って来たんだね。」せいの高い鼻眼鏡《はなめがね》の公爵が段をあがって来て云ひました。
「おや、誰か葡萄なぞ食って床へ種子《たね》をちらしたぞ。」泊りに来て居た友だちのヘルバ伯爵が上着のかくしに手をつっこんで云ひました。
「この牛の仔にリボン結んでやるわ。」伯爵の二番目の女の子がかくしから黄いろのリボンを出しながら云ひました。
底本:「新修宮沢賢治全集 第十一巻」筑摩書房
1979(昭和54)年11月15日初版第1刷発行
1983(昭和58)年12月20日初版第5刷発行
入力:林 幸雄
校正:土屋隆
2007年4月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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