四人の学者と、村の人たちと、一台の荷馬車がやって参りました。
そして、柏《かしは》の木の下にとまりました。
「さあ、大切な標本だから、こはさないやうにして呉《く》れ給へ。よく包んで呉れ給へ。苔《こけ》なんかむしってしまはう。」
苔は、むしられて泣きました。火山弾はからだを、ていねいに、きれいな藁《わら》や、むしろに包まれながら、云ひました。
「みなさん。ながながお世話でした。苔さん。さよなら。さっきの歌を、あとで一ぺんでも、うたって下さい。私の行くところは、こゝのやうに明るい楽しいところではありません。けれども、私共は、みんな、自分でできることをしなければなりません。さよなら。みなさん。」
「東京帝国大学校地質学教室行、」と書いた大きな札がつけられました。
そして、みんなは、「よいしょ。よいしょ。」と云ひながら包みを、荷馬車へのせました。
「さあ、よし、行かう。」
馬はプルルルと鼻を一つ鳴らして、青い青い向ふの野原の方へ、歩き出しました。
底本:「新修宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房
1979(昭和54)年5月15日初版第1刷発行
1984(昭和59)年1月30日初版第7刷発行
入力:林 幸雄
校正:久保格
2002年11月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング