「べゴ黒助、べゴ黒助、
 黒助どんどん、
 あめがふっても黒助、どんどん、
 日が照っても、黒助どんどん。

 べゴ黒助、べゴ黒助、
 黒助どんどん、
 千年たっても、黒助どんどん、
 万年たっても、黒助どんどん。」
 べゴ石は笑ひながら、
「うまいよ。なかなかうまいよ。しかしその歌は、僕はかまはないけれど、お前たちには、よくないことになるかも知れないよ。僕が一つ作ってやらう。これからは、そっちをおやり。ね、そら、
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お空。お空。お空のちゝは、
つめたい雨の ザァザザザ、
かしはのしづくトンテントン、
まっしろきりのポッシャントン。
お空。お空。お空のひかり、
おてんとさまは、カンカンカン、
月のあかりは、ツンツンツン、
ほしのひかりの、ピッカリコ。」
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「そんなものだめだ。面白くもなんともないや。」
「さうか。僕は、こんなこと、まづいからね。」
 べゴ石は、しづかに口をつぐみました。
 そこで、野原中のものは、みんな口をそろへて、べゴ石をあざけりました。
「なんだ。あんな、ちっぽけな赤頭巾《あかづきん》に、べゴ石め、へこまされてるんだ。もうおいらは、あいつとは絶交だ。みっともない。黒助め。黒助、どんどん。べゴどんどん。」
 その時、向ふから、眼《め》がねをかけた、せいの高い立派な四人の人たちが、いろいろなピカピカする器械をもって、野原をよこぎって来ました。その中の一人が、ふとべゴ石を見て云ひました。
「あ、あった、あった。すてきだ。実にいゝ標本だね。火山弾の典型だ。こんなととのったのは、はじめて見たぜ。あの帯の、きちんとしてることね。もうこれ丈《だ》けでも今度の旅行は沢山だよ。」
「うん。実によくととのってるね。こんな立派な火山弾は、大英博物館にだってないぜ。」
 みんなは器械を草の上に置いて、ベゴ石をまはってさすったりなでたりしました。
「どこの標本でも、この帯の完全なのはないよ。どうだい。空でぐるぐるやった時の工合《ぐあひ》が、実によくわかるぢゃないか。すてき、すてき。今日すぐ持って行かう。」
 みんなは、又、向ふの方へ行きました。稜《かど》のある石は、だまってため息ばかりついてゐます。そして気のいゝ火山弾は、だまってわらって居《を》りました。
 ひるすぎ、野原の向ふから、又キラキラめがねや器械が光って、さっきの
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