いっぱいにあらはれましたので、稜のある石どもは、みんな雨のお酒のことや、雪の団子のことを考へはじめました。そこでべゴ石も、しづかに、まんまる大将の、お日さまと青ぞらとを見あげました。
 その次の日、又、霧がかゝりましたので、稜石どもは、又べゴ石をからかひはじめました。実は、たゞからかったつもりだっただけです。
「べゴさん。おれたちは、みんな、稜がしっかりしてゐるのに、お前さんばかり、なぜそんなにくるくるしてるだらうね。一緒に噴火のとき、落ちて来たのにね。」
「僕は、生れてまだまっかに燃えて空をのぼるとき、くるくるくるくる、からだがまはったからね。」
「ははあ、僕たちは、空へのぼるときも、のぼる位のぼって、一寸《ちょっと》とまった時も、それから落ちて来るときも、いつも、じっとしてゐたのに、お前さんだけは、なぜそんなに、くるくるまはったらうね。」
 その癖、こいつらは、噴火で砕けて、まっくろな煙と一緒に、空へのぼった時は、みんな気絶してゐたのです。
「さあ、僕は一向まはらうとも思はなかったが、ひとりでからだがまはって仕方なかったよ。」
「ははあ、何かこはいことがあると、ひとりでからだがふるへるからね。お前さんも、ことによったら、臆病《おくびゃう》のためかも知れないよ。」
「さうだ。臆病のためだったかも知れないね。じっさい、あの時の、音や光は大へんだったからね。」
「さうだらう。やっぱり、臆病のためだらう。ハッハハハハッハ、ハハハハハ。」
 稜《かど》のある石は、一しょに大声でわらひました。その時、霧がはれましたので、角《かど》のある石は、空を向いて、てんでに勝手なことを考へはじめました。
 ベゴ石も、だまって、柏《かしは》の葉のひらめきをながめました。
 それから何べんも、雪がふったり、草が生えたりしました。かしはは、何べんも古い葉を落して、新らしい葉をつけました。
 ある日、かしはが云ひました。
「ベゴさん。僕とあなたが、お隣りになってから、もうずゐぶん久しいもんですね。」
「えゝ。さうです。あなたは、ずゐぶん大きくなりましたね。」
「いゝえ。しかし僕なんか、前はまるで小さくて、あなたのことを、黒い途方もない山だと思ってゐたんです。」
「はあ、さうでせうね。今はあなたは、もう僕の五倍もせいが高いでせう。」
「さう云へばまあさうですね。」
 かしはは、すっかり、うぬぼれ
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