のはづれにしかゐないといふやうな氣がしてしかたなかつたのです。
けれどもみんなはまだどこかの波の間から、
「ぼくずゐぶん泳いだぞ。」と云ひながらカムパネルラが出て來るか、或ひはカムパネルラがどこかの人の知らない洲にでも着いて立つてゐて、誰かの來るのを待つてゐるかといふやうな氣がして仕方ないらしいのでした。
けれども俄かにカムパネルラのお父さんがきつぱり云ひました。
「もう駄目です。墜ちてから四十五分たちましたから。」
ジヨバンニは思はずかけよつて、博士の前に立つて、ぼくはカムパネルラの行つた方を知つてゐます。ぼくはカムパネルラといつしよに歩いてゐたのです。と云はうとしましたが、もうのどがつまつて何とも云へませんでした。
すると博士はジヨバンニが挨拶に來たとでも思つたものですか、しばらくしげしげとジヨバンニを見てゐましたが、
「あなたはジヨバンニさんでしたね。どうも今晩はありがたう。」と叮ねいに云ひました。
ジヨバンニは何も云へずにただおじぎをしました。
「あなたのお父さんはもう歸つてゐますか。」博士は堅く時計を握つたまま、また聞きました。
「いいえ。」ジヨバンニはかすかに頭をふりました。
「どうしたのかなあ、ぼくには一昨日大へん元氣な便りがあつたんだが。今日あたりもう着くころなんだが船が遲れたんだな。ジヨバンニさん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに來てくださいね。」さう云ひながら博士はまた、川下の銀河のいつぱいにうつつた方へ、ぢつと眼を送りました。
ジヨバンニはもういろいろなことで胸がいつぱいで、なんにも云へずに、博士の前をはなれましたが、早くお母さんにお父さんの歸ることを知らせようと思ふと、牛乳を持つたまま、もう一目散に河原を街の方へ走りました。
けれどもまたその中にジヨバンニの目には涙が一杯になつて來ました。
街燈や飾り窓や色々のあかりがぼんやりと夢のやうに見えるだけになつて、いつたいじぶんがどこを走つてゐるのか、どこへ行くのかすらわからなくなつて走り續けました。
そしていつかひとりでにさつきの牧場のうしろを通つて、また丘の頂に來て天氣輪の柱や天の川をうるんだ目でぼんやり見つめながら坐つてしまひました。
汽車の音が遠くからきこえて來て、だんだん高くなりまた低くなつて行きました。
その音をきいてゐるうちに、汽車と同じ調子のセロのやうな聲でた
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