はずれのポプラの木が幾本《いくほん》も幾本も、高く星ぞらに浮《うか》んでいるところに来ていました。その牛乳屋の黒い門を入り、牛の匂《におい》のするうすくらい台所の前に立って、ジョバンニは帽子《ぼうし》をぬいで「今晩は、」と云いましたら、家の中はしぃんとして誰《たれ》も居たようではありませんでした。
「今晩は、ごめんなさい。」ジョバンニはまっすぐに立ってまた叫びました。するとしばらくたってから、年|老《と》った女の人が、どこか工合《ぐあい》が悪いようにそろそろと出て来て何か用かと口の中で云いました。
「あの、今日、牛乳が僕《ぼく》ん[#「ん」は小書き]とこへ来なかったので、貰《もら》いにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命|勢《いきおい》よく云いました。
「いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。」
 その人は、赤い眼の下のとこを擦《こす》りながら、ジョバンニを見おろして云いました。
「おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。」
「ではもう少したってから来てください。」その人はもう行ってしまいそうでした。
「そうですか。ではありがとう。」ジョバンニは、お辞儀《じ
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