こそわたれわたり鳥、いまこそわたれわたり鳥」その声もはっきり聞こえました。
それといっしょにまた幾万《いくまん》という鳥の群《む》れがそらをまっすぐにかけたのです。二人《ふたり》の顔を出しているまん中の窓《まど》からあの女の子が顔を出して美《うつく》しい頬《ほお》をかがやかせながらそらを仰《あお》ぎました。
「まあ、この鳥、たくさんですわねえ、あらまあそらのきれいなこと」女の子はジョバンニにはなしかけましたけれどもジョバンニは生意気《なまいき》な、いやだいと思いながら、だまって口をむすんでそらを見あげていました。女の子は小さくほっと息《いき》をして、だまって席《せき》へ戻《もど》りました。カムパネルラがきのどくそうに窓《まど》から顔を引っ込《こ》めて地図を見ていました。
「あの人鳥へ教えてるんでしょうか」女の子がそっとカムパネルラにたずねました。
「わたり鳥へ信号《しんごう》してるんです。きっとどこからかのろしがあがるためでしょう」
カムパネルラが少しおぼつかなそうに答えました。そして車の中はしいんとなりました。ジョバンニはもう頭を引っ込《こ》めたかったのですけれども明るいとこへ顔を出すのがつらかったので、だまってこらえてそのまま立って口笛《くちぶえ》を吹《ふ》いていました。
(どうして僕《ぼく》はこんなにかなしいのだろう。僕《ぼく》はもっとこころもちをきれいに大きくもたなければいけない。あすこの岸《きし》のずうっと向《む》こうにまるでけむりのような小さな青い火が見える。あれはほんとうにしずかでつめたい。僕《ぼく》はあれをよく見てこころもちをしずめるんだ)
ジョバンニは熱《ほて》って痛《いた》いあたまを両手《りょうて》で押《おさ》えるようにして、そっちの方を見ました。
(ああほんとうにどこまでもどこまでも僕《ぼく》といっしょに行くひとはないだろうか。カムパネルラだってあんな女の子とおもしろそうに談《はな》しているし僕《ぼく》はほんとうにつらいなあ)
ジョバンニの眼《め》はまた泪《なみだ》でいっぱいになり、天の川もまるで遠くへ行《い》ったようにぼんやり白く見えるだけでした。
そのとき汽車はだんだん川からはなれて崖《がけ》の上を通るようになりました。向《む》こう岸《ぎし》もまた黒いいろの崖《がけ》が川の岸《きし》を下流《かりゅう》に下るにしたがって、だんだん高
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