ホモイはあきれていましたが、馬があんまり泣《な》くものですから、ついつりこまれてちょっと鼻《はな》がせらせらしました。馬は風呂敷《ふろしき》ぐらいある浅黄《あさぎ》のはんけちを出して涙《なみだ》をふいて申《もう》しました。
 「あなた様《さま》は私《わたし》どもの恩人《おんじん》でございます。どうかくれぐれもおからだを大事《だいじ》になされてくだされませ」そして馬はていねいにおじぎをして向《む》こうへ歩いて行きました。
 ホモイはなんだかうれしいようなおかしいような気がしてぼんやり考えながら、にわとこの木の影《かげ》に行きました。するとそこに若《わか》い二|疋《ひき》の栗鼠《りす》が、仲《なか》よく白いお餠《もち》をたべておりましたがホモイの来たのを見ると、びっくりして立ちあがって急《いそ》いできもののえりを直《なお》し、目を白黒くして餠《もち》をのみ込《こ》もうとしたりしました。
 ホモイはいつものように、
 「りすさん。お早う」とあいさつをしましたが、りすは二|疋《ひき》とも堅《かた》くなってしまって、いっこうことばも出ませんでした。ホモイはあわてて、
 「りすさん。今日もいっしょにどこか遊《あそ》びに行きませんか」と言《い》いますと、りすはとんでもないと言《い》うように目をまん円にして顔を見合わせて、それからいきなり向《む》こうを向《む》いて一生けん命《めい》逃《に》げて行ってしまいました。
 ホモイはあきれてしまいました。そして顔色を変《か》えてうちへ戻《もど》って来て、
 「おっかさん。なんだかみんな変《へん》なぐあいですよ。りすさんなんか、もう僕《ぼく》を仲間《なかま》はずれにしましたよ」と言《い》いますと兎《うさぎ》のおっかさんが笑《わら》って答えました。
 「それはそうですよ。お前はもう立派《りっぱ》な人になったんだから、りすなんか恥《は》ずかしいのです。ですからよく気をつけてあとで笑《わら》われないようにするんですよ」
 ホモイが言《い》いました。
 「おっかさん。それは大丈夫《だいじょうぶ》ですよ。それなら僕《ぼく》はもう大将《たいしょう》になったんですか」
 おっかさんもうれしそうに、
 「まあそうです」と申《もう》しました。
 ホモイが悦《よろこ》んで踊《おど》りあがりました。
 「うまいぞ。うまいぞ。もうみんな僕《ぼく》のてしたなんだ
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