《たで》やつゆくさは、すっかり水の中になりました。飛び込《こ》むのは一寸《ちょっと》こわいくらいです。カン蛙は、けれども一本のたでから、ピチャンと水に飛び込んで、ツイツイツイツイ泳ぎました。泳ぎながらどんどん流されました。それでもとにかく向うの岸にのぼりました。
 それから苔《こけ》の上をずんずん通り、幾本もの虫のあるく道を横切って、大粒《おおつぶ》の雨にうたれゴム靴をピチャピチャ云わせながら、楢の木の下のブン蛙のおうちに来て高く叫びました。
「今日は、今日は。」
「どなたですか。ああ君か。はいり給《たま》え。」
「うん、どうもひどい雨だね。パッセン大街道《だいかいどう》も今日はいきものの影《かげ》さえないぞ。」
「そうか。ずいぶんひどい雨だ。」
「ところで君も知ってる通り、明後日《あさって》は僕の結婚式なんだ。どうか来て呉れ給え。」
「うん。そうそう。そう云えばあの時あのちっぽけな赤い虫が何かそんなこと云ってたようだったね。行こう。」
「ありがとう。どうか頼むよ。それではさよならね。」
「さよならね。」
 カン蛙は又ピチャピチャ林の中を通ってすすきの中のベン蛙のうちにやって参りました
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