ガサリと鳴り、カン蛙はふらふらっと一寸ばかりめり込みました。ブン蛙とベン蛙がくるりと外の方を向いて逃げようとしましたが、カン蛙がピタリと両方共とりついてしまひましたので二疋のふんばった足がぷるぷるっとけいれんし、そのつぎにはたうとう「ポトン、バチャン。」
三疋とも、杭穴の底の泥水の中に陥《お》ちてしまひました。上を見ると、まるで小さな円い空が見えるだけ、かゞやく雲の峯は一寸《ちょっと》のぞいて居りますが、蛙たちはもういくらもがいてもとりつくものもありませんでした。
そこでルラ蛙はもう昔習った六百|米《メートル》の奥の手を出して一目散にお父さんのところへ走って行きました。するとお父さんたちはお酒に酔ってゐてみんなぐうぐう睡《ねむ》ってゐていくら起しても起きませんでした。そこでルラ蛙はまたもとのところへ走って来てまはりをぐるぐるぐるぐるまはって泣きました。
そのうちだんだん夜になりました。
パチャパチャパチャパチャ。
ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
いくら起しても起きませんでした。
夜があけました。
パチャパチャパチャパチャ。
ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
いくら起しても起きませんでした。
日が暮れました。雲のみねの頭。
パチャパチャパチャパチャ。
ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
いくら起しても起きませんでした。
夜が明けました。
パチャパチャパチヤパチャ。
雲のみね。ペネタ形。
ちゃうどこのときお父さんの蛙はやっと眼がさめてルラ蛙がどうなったか見ようと思って出掛けて来ました。
するとそこにはルラ蛙《がへる》がつかれてまっ青になって腕を胸に組んで座ったまゝ睡《ねむ》ってゐました。
「おいどうしたのか。おい。」
「あらお父さん、三人この中へおっこってゐるわ。もう死んだかもしれないわ」
お父さんの蛙は落ちないやうに気をつけながら耳を穴の口へつけて音をききましたら、かすかにぴちゃといふ音がしました。
「占めた」と叫んでお父さんは急いで帰って仲間の蛙をみんなつれて来ました。そして林の中からひかげのかつらをとって来てそれを穴の中につるして、たうとう一ぴきづつ穴からひきあげました。
三疋とももう白い腹を上へ向けて眼はつぶって口も堅くしめて半分死んでゐました。
みんなでごまざいの
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