でした。この時丁度、向うで終業のベルが鳴りましたので、先生は、
「今日はここまでにして置きます。」と云って礼をしました。私は校長について校長室に戻りました。校長は又私の茶椀《ちゃわん》に紅茶をついで云いました。
「ご感想はいかがですか。」
 私は答えました。
「正直を云いますと、実は何だか頭がもちゃもちゃしましたのです。」
 校長は高く笑いました。
「アッハッハ。それはどなたもそう仰《おっしゃ》います。時に今日は野原で何かいいものをお見付けですか。」
「ええ、火山弾《かざんだん》を見附《みつ》けました。ごく不完全です。」
「一寸《ちょっと》拝見。」
 私は仕方なく背嚢《はいのう》からそれを出しました。校長は手にとってしばらく見てから
「実にいい標本です。いかがです。一つ学校へご寄附《きふ》を願えませんでしょうか。」と云うのです。私は仕方なく、
「ええ、よろしゅうございます。」と答えました。
 校長はだまってそれをガラス戸棚《とだな》にしまいました。
 私はもう頭がぐらぐらして居たたまらなくなりました。
 すると校長がいきなり、
「ではさよなら。」というのです。そこで私も
「これで失礼|
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