いっていませんでした。
「それ、しっかり投げろ。なまけるな。」下では紳士が叫んでいます。ネネムはそこで又投げました。やっぱりなんにもありません。又投げました。やっぱり昆布ははいりません。
つかれてヘトヘトになったネネムはもう何でも構わないから下りて行こうとしました。すると愕《おどろ》いたことにははしごがありませんでした。
そしてもう夕方になったと見えてばけものぞらは緑色になり変なばけものパンが下の方からふらふらのぼって来てネネムの前にとまりました。紳士はどこへ行ったか影《かげ》もかたちもありません。
向うの木の上の二人もしょんぼりと頭を垂れてパンを食べながら考えているようすでした。その木にも鉄のはしごがもう見えませんでした。
ネネムも仕方なくばけものパンを噛《か》じりはじめました。
その時紳士が来て、
「さあ、たべてしまったらみんな早く網を投げろ。昆布を一|斤《きん》とらないうちは綿のはいったチョッキをやらんぞ。」とどなりました。
ネネムは叫びました。
「おじさん。僕もうだめだよ。おろしてお呉《く》れ。」
紳士が下でどなりました。
「何だと。パンだけ食ってしまってあとはお
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