ネネムは泣き出しそうになりましたがやっとこらえて云いました。
「おじさん。そんなら僕《ぼく》手伝うよ。けれどもどうして昆布を取るの。」
「ふん。そいつは勿論《もちろん》教えてやる。いいか、そら。」紳士はポケットから小さく畳《たた》んだ洋傘《こうもりがさ》の骨のようなものを出しました。
「いいか。こいつを延ばすと子供の使うはしごになるんだ。いいか。そら。」
紳士はだんだんそれを引き延ばしました。間もなく長さ十|米《メートル》ばかりの細い細い絹糸でこさえたようなはしごが出来あがりました。
「いいかい。こいつをね。あの栗の木に掛《か》けるんだよ。ああ云う工合《ぐあい》にね。」紳士はさっきの二人の男を指さしました。二人は相かわらず見えない網や糸をまっさおな空に投げたり引いたりしています。
紳士ははしごを栗の樹《き》にかけました。
「いいかい。今度はおまえがこいつをのぼって行くんだよ。そら、登ってごらん。」
ネネムは仕方なくはしごにとりついて登って行きましたがはしごの段々がまるで針金のように細くて手や、足に喰《く》い込んでちぎれてしまいそうでした。
「もっと登るんだよ。もっと。そら、もっと
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