が云いました。
「そうだ。その通りだ。そしてわしはこの前のお方に昔すてきなかしがあるので、毎日ついて歩いて三百円ずつとるのだ。」
「ふうん。大分わかって来たぞ。あとはもう貸した年と今とる金だかだけを云え。」とネネムが申しました。
「二百五十年五百円」「三百年、千円」「三百一年、千七円」「三百二年、千八円」「三百三年、千九円」「三百四年、千十円。」
ネネムはすばやく勘定しました。
「もうわかった。第三十番。電信柱の下の立ちねむり。おまえは千三十円とっているだろう。」
「全くさようでございます。ご明察恐れ入ります。」
その時さっきの角のところに立って、あくびをしていた監督が云いました。
「どうです。そうでしょう。私は毎日千三十円三十銭だけとって、千三十円だけこの人に納めるのです。」
ネネムが云いました。
「そうか。すると一体|誰《たれ》がフクジロを使って歩かせているのだ。」
「私にはわかりません。私にはわかりません。」とみんなが一度に云いました。そこでネネムも一寸|困《こま》りましたがしばらくたってから申しました。
「よし。そんならフクジロのマッチを売っていることを知っているものは手をあげ。」
硬い黒いタンイチはじめ順ぐりに十人だけ手をあげました。
「よろしい。すると十人目の貴さまが一番悪い。監獄にはいれ。」
「いいえ。どういたしまして。私はただフクジロのマッチを売っていることを遠くから見ているだけでございます。それを十円に売るなんて、めっそうな、私は一向に存じません。」
「どうもこれはずいぶん不愉快《ふゆかい》な事件だね。よろしい。そんならフクジロがマッチを十円で売るということを知っているものは手をあげ。」
硬い黒いタンイチからただ三人でした。
「するとお前だ。監獄にはいれ。」とネネムが云いました。
「それはさっきも申しあげました。私はただ命令で見ていただけです。」
「するとお前は十円に売ることは知っている、けれどもただ云いつかっているだけだというのだな、それから次のお前は云いつけてはいる。けれども十円に売れなんて云ったおぼえもなし又十円に売っているとも思わない、ただまあ、フクジロがよちよち家を出たりはいったりして、それでよくこんなにもうかるもんだと思っていたと、こうだろう。」
「全くご名察の通り。」と二人が一緒に云いました。
「よろしい。もうわかった。お前
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