だ。みんなその支度《したく》をしろ。」
「かしこまりました。」
そこでペンネンネンネンネン・ネネムは、燕麦《オート》を一|把《わ》と、豆汁《まめじる》を二リットルで軽く朝飯をすまして、それから三十人の部下をつれて世界長の官邸に行きました。
ばけもの世界長は、もう大広間の正面に座って待っています。世界長は身のたけ百九十尺もある中世代の瑪瑙木《めのうぼく》でした。
ペンネンネンネンネン・ネネムは、恭々しく進んで片膝《かたひざ》を床につけて頭を下げました。
「ペンネンネンネンネン・ネネム裁判長はおまえであるか。」
「さようでございます。永久に忠勤を誓《ちか》い奉《たてまつ》ります。」
「うん。しっかりやって呉《く》れ。ゆうべの裁判のことはもう聞いた。それに今朝はこれから巡視に出るそうだな。」
「はい。恐れ入ります。」
「よろしい。どうかしっかりやって呉れ。」
「かしこまりました。」
そこでペンネンネンネンネン・ネネムは又うやうやしく世界長に礼をして、後戻《あともど》りして退きました。三十人の部下はもう世界長の首尾がいいので大喜びです。
ペンネンネンネンネン・ネネムも大機嫌《だいきげん》でそれから町を巡視しはじめました。
ばけもの世界のハンムンムンムンムン・ムムネ市の盛《さか》んなことは、今日とて少しも変りません。億百万のばけものどもは、通り過ぎ通りかかり、行きあい行き過ぎ、発生し消滅《しょうめつ》し、聨合《れんごう》し融合《ゆうごう》し、再現し進行し、それはそれは、実にどうも見事なもんです。ネネムもいまさらながら、つくづくと感服いたしました。
その時向うから、トッテントッテントッテンテンと、チャリネルという楽器を叩《たた》いて、小さな赤い旗をたてた車が、ほんの少しずつこっちへやって来ました。見物のばけものがまるで赤山のようにそのまわりについて参ります。
ペンネンネンネンネン・ネネムは、行きあいながらふと見ますと、その赤い旗には、白くフクジロと染め抜いてあって、その横にせいの高さ三尺ばかりの、顔がまるでじじいのように皺《しわ》くちゃな殊《こと》に鼻が一尺ばかりもある怖《こわ》い子供のようなものが、小さな半ずぼんをはいて立ち、車を引っ張っている黒い硬《かた》いばけものから、「フクジロ印」という商標のマッチを、五つばかり受け取っていました。ネネムは何をするのかと
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