によって養う分の家畜は論外であります。然しながらそれを計算に入れても又《また》大丈夫《だいじょうぶ》です。家畜だってみんな喰べるものばかりでなく羊のように毛を貰うもの馬や牛のように労働をして貰うものいろいろあります。
次に食料が半分になっちゃ人間も半分になる、いかにも面白《おもしろ》いですが仲々その食料が半分にならない。減るどころか事によると少し増えるかも知れません。ですから大丈夫戦争も起らなければ無期徒刑をご心配して下さらなくても大丈夫です。却《かえ》って菜食はみんなの心を平和にし互《たがい》に正しく愛し合うことができるのです。多くの宗教で肉食を禁ずることが大切の儀式《ぎしき》にはつきものになっているのでもわかりましょう。戦争どこじゃない菜食はあなた方にも永遠の平和を齎《もたら》してせっかく避暑《ひしょ》に来ていながら自働車まで雇《やと》って変な宣伝をやったり大祭へ踏《ふ》み込んで来ていやな事を云って婦人たちを卒倒させたりしなくてもいいようになります。又我々だって無期徒刑じゃない、人類の仲間からと哺乳《ほにゅう》動物組合、鳥類連盟、魚類事務所などからまで勲章《くんしょう》や感謝状を沢山贈られる訳です。どうです。おわかりになったらあなたもビジテリアンにおなりなさい。」
すると前の論士が立ちあがりました。大へん悔悟《かいご》したような顔はしていましたが何だかどこか噴《ふ》き出したいのを堪《こら》えていたようにも見えました。しょんぼり壇《だん》に登って来て
「悔悟します。今日から私もビジテリアンになります。」と云《い》って今の青年の手をとったのでした。みんなは実にひどく拍手しました。二人は連れ立って私たちの方へ下り技師もその空いた席へ腰《こし》かけて肩《かた》ですうすう息をしていました。ところが勿論《もちろん》この事の為に異教席の憤懣《ふんまん》はひどいものでした。一人のやっぱり技師らしい男がずいぶん粗暴《そぼう》な態度で壇に昇《のぼ》りました。
「諸君、私の疑問に答えたまえ。
動物と植物との間には確たる境界がない。パンフレットにも書いて置いた通りそれは人類の勝手に設けた分類に過ぎない。動物がかあいそうならいつの間にか植物もかあいそうになる筈だ。動物の中の原生動物と植物の中の細菌《さいきん》類とは殆《ほと》んど相密接せるものである。又動物の中にだってヒドラや珊瑚《
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