けた絵にまでして、広告されるのですし、そうでなくても、元来人間は、この針金のねずみ捕りを、一ぺんも優待したことはありませんでした。ええ、それはもうたしかにありませんとも。それに、さもさわるのさえきたないようにみんなから思われています。それですから実は、ねずみ捕りは人間よりはねずみの方に、よけい同情があるのです。けれども、たいていのねずみはなかなかこわがって、そばへやって参りません。ねずみ捕りは、毎日やさしい声で、
「ねずちゃん、おいで。今夜のごちそうはあじのおつむだよ。お前さんの食べる間、わたしはしっかり押えておいてあげるから。ね、安心しておいで。入り口をパタンとしめるようなそんなことをするもんかね。わたしも人間にはもうこりこりしてるんだから。おいでよ。そら。」
 なんてねずみを呼びかけますが、ねずみはみんな、
「へん、うまく言ってらあ。」とか、
「へい、へい。よくわかりましてございます。いずれ、おやじや、せがれとも相談の上で。」とか言ってそろそろ逃げて行ってしまいます。
 そして朝になると、顔のまっ赤《か》な下男《げなん》が来て見て、
「またはいらない。ねずみももう知ってるんだな。ね
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