はあっても、もう蟻が来てましたよ。」
「蟻が、へい。そうかい。早いやつらだね。」
「みんな蟻がとってしまいましたよ。私のような弱いものをだますなんて、償《まど》うてください。償うてください。」
「それはしかたない。お前の行きようが少しおそかったのや。」
「知らん、知らん。私のような弱いものをだまして。償うてください。償うてください。」
「困ったやつだな。ひとの親切をさかさまにうらむとは。よしよし。そんならおれの金米糖をやろう。」
「償うてください。償うてください。」
「えい、それ。持って行け。てめえの持てるだけ持ってうせちまえ。てめえみたいな、ぐにゃぐにゃした男らしくもねえやつは、つらも見たくねえ。早く持てるだけ持ってどっかへうせろ。」いたちはプリプリして、金米糖を投げ出しました。ツェねずみはそれを持てるだけたくさんひろって、おじぎをしました。いたちはいよいよおこって叫びました。
「えい、早く行ってしまえ。てめえの取った、のこりなんかうじむしにでもくれてやらあ。」
 ツェねずみは、いちもくさんに走って、天井裏の巣へもどって、金米糖をコチコチ食べました。
 こんなぐあいですから、ツェねずみはだんだんきらわれて、たれもあんまり相手にしなくなりました。そこでツェねずみはしかたなしに、こんどは、柱だの、こわれたちりとりだの、バケツだの、ほうきだのと交際をはじめました。中でも柱とは、いちばん仲よくしていました。
 柱がある日、ツェねずみに言いました。
「ツェねずみさん、もうじき冬になるね。ぼくらはまたかわいてミリミリ言わなくちゃならない。お前さんも今のうちに、いい夜具のしたくをしておいた方がいいだろう。幸いぼくのすぐ頭の上に、すずめが春持って来た鳥の毛やいろいろ暖かいものがたくさんあるから、いまのうちに、すこしおろして運んでおいたらどうだい。僕《ぼく》の頭は、まあ少し寒くなるけれど、僕は僕でまたくふうをするから。」
 ツェねずみはもっともと思いましたので、さっそく、その日から運び方にかかりました。
 ところが、途中に急な坂が一つありましたので、ねずみは三度目に、そこからストンところげ落ちました。
 柱もびっくりして、
「ねずみさん、けがはないかい。けがはないかい。」と一生けん命、からだを曲げながら言いました。ねずみはやっと起き上がって、それからかおをひどくしかめながら言いまし
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