ブドリがふっと目をひらいたとき、いきなり頭の上で、いやに平べったい声がしました。
「やっと目がさめたな。まだお前は飢饉《ききん》のつもりかい。起きておれに手伝わないか。」見るとそれは茶いろなきのこしゃっぽ[#「きのこしゃっぽ」に傍点]をかぶって外套《がいとう》にすぐシャツを着た男で、何か針金でこさえたものをぶらぶら持っているのでした。
「もう飢饉は過ぎたの? 手伝えって何を手伝うの?」
 ブドリがききました。
「網掛けさ。」
「ここへ網を掛けるの?」
「掛けるのさ。」
「網をかけて何にするの?」
「てぐす[#「てぐす」に傍点]を飼うのさ。」見るとすぐブドリの前の栗《くり》の木に、二人の男がはしごをかけてのぼっていて、一生けん命何か網を投げたり、それを操《あやつ》ったりしているようでしたが、網も糸もいっこう見えませんでした。
「あれでてぐすが飼えるの?」
「飼えるのさ。うるさいこどもだな。おい、縁起でもないぞ。てぐすも飼えないところにどうして工場なんか建てるんだ。飼えるともさ。現におれをはじめたくさんのものが、それでくらしを立てているんだ。」
 ブドリはかすれた声で、やっと、
「そうで
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