見たこともないような大きなテーブルがあって、そのまん中に一人の少し髪の白くなった人のよさそうな立派な人が、きちんとすわって耳に受話器をあてながら何か書いていました。そしてブドリのはいって来たのを見ると、すぐ横の椅子《いす》を指さしながら、また続けて何か書きつけています。
その室の右手の壁いっぱいに、イーハトーヴ全体の地図が、美しく色どった大きな模型に作ってあって、鉄道も町も川も野原もみんな一目でわかるようになっており、そのまん中を走るせぼねのような山脈と、海岸に沿って縁をとったようになっている山脈、またそれから枝を出して海の中に点々の島をつくっている一列の山々には、みんな赤や橙《だいだい》や黄のあかりがついていて、それがかわるがわる色が変わったりジーと蝉《せみ》のように鳴ったり、数字が現われたり消えたりしているのです。下の壁に添った棚《たな》には、黒いタイプライターのようなものが三列に百でもきかないくらい並んで、みんなしずかに動いたり鳴ったりしているのでした。ブドリがわれを忘れて見とれておりますと、その人が受話器をことっと置いて、ふところから名刺入れを出して、一枚の名刺をブドリに出し
前へ
次へ
全54ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング