た。
ところがその次の年はそうは行きませんでした。植え付けのころからさっぱり雨が降らなかったために、水路はかわいてしまい、沼にはひびが入って、秋のとりいれはやっと冬じゅう食べるくらいでした。来年こそと思っていましたが、次の年もまた同じようなひでりでした。それからも、来年こそ来年こそと思いながら、ブドリの主人は、だんだんこやしを入れることができなくなり、馬も売り、沼ばたけもだんだん売ってしまったのでした。
ある秋の日、主人はブドリにつらそうに言いました。
「ブドリ、おれももとはイーハトーヴの大百姓だったし、ずいぶんかせいでも来たのだが、たびたびの寒さと旱魃《かんばつ》のために、いまでは沼ばたけも昔の三分の一になってしまったし、来年はもう入れるこやしもないのだ。おれだけでない。来年こやしを買って入れれる人ったらもうイーハトーヴにも何人もないだろう。こういうあんばいでは、いつになっておまえにはたらいてもらった礼をするというあてもない。おまえも若い働き盛りを、おれのとこで暮らしてしまってはあんまり気の毒だから、済まないがどうかこれを持って、どこへでも行っていい運を見つけてくれ。」そして主人
前へ
次へ
全54ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング