「それはいい。けれども僕がやろう。僕はことしもう六十三なのだ。ここで死ぬなら全く本望というものだ。」
「先生、けれどもこの仕事はまだあんまり不確かです。一ぺんうまく爆発してもまもなくガスが雨にとられてしまうかもしれませんし、また何もかも思ったとおりいかないかもしれません。先生が今度おいでになってしまっては、あとなんともくふうがつかなくなると存じます。」
 老技師はだまって首をたれてしまいました。
 それから三日の後、火山局の船が、カルボナード島へ急いで行きました。そこへいくつものやぐらは建ち、電線は連結されました。
 すっかりしたくができると、ブドリはみんなを船で帰してしまって、じぶんは一人島に残りました。
 そしてその次の日、イーハトーヴの人たちは、青ぞらが緑いろに濁り、日や月が銅《あかがね》いろになったのを見ました。
 けれどもそれから三四日たちますと、気候はぐんぐん暖かくなってきて、その秋はほぼ普通の作柄になりました。そしてちょうど、このお話のはじまりのようになるはずの、たくさんのブドリのおとうさんやおかあさんは、たくさんのブドリやネリといっしょに、その冬を暖かいたべものと、明るい薪《たきぎ》で楽しく暮らすことができたのでした。



底本:「童話集 風の又三郎」岩波文庫、岩波書店
   1951(昭和26)年4月25日第1刷発行
   1997(平成9)年8月4日第70刷発行
入力:柴田卓治
校正:松永正敏
2004年1月5日作成
2004年3月22日修正
青空文庫作成ファイル:
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