そのつまりテイタイするね。」
「エン、エン、エイ、エイ。」クねずみはまたひくくせきばらいをしました。
 相手のねずみは、「へい。」と言って考えています。
「そこで、その、世界文明のシンポハッタツ、カイリョウカイゼンがテイタイすると、政治はもちろんケイザイ、ノウギョウ、ジツギョウ、コウギョウ、キョウイク、ビジュツそれからチョウコク、カイガ、それからブンガク、シバイ、ええと、エンゲキ、ゲイジュツ、ゴラク、そのほかタイイクなどが、ハッハッハ、たいへんそのどうもわるくなるね。」テねずみはむつかしいことをあまりたくさん言ったので、もう愉快でたまらないようでした。クねずみはそれがまたむやみにしゃくにさわって、「エン、エン。」と聞こえないように、そしてできるだけ高くせきばらいをやって、にぎりこぶしをかためました。
 相手のねずみはやはり「へい。」と言っております。
 テねずみはまたはじめました。
「そこでそのケイザイやゴラクが悪くなるというと、不平を生じてブンレツを起こすというケッカにホウチャクするね。そうなるのは実にそのわれわれのシンガイでフホンイであるから、やはりその、ものごとは共同一致団結和睦のセイシンでやらんといかんね。」
 クねずみはあんまりテねずみのことばが立派で、議論がうまくできているのがしゃくにさわって、とうとうあらんかぎり、
「エヘン、エヘン。」とやってしまいました。するとテねずみはぶるるっとふるえて、目を閉じて、小さく小さくちぢまりましたが、だんだんそろりそろりと延びて、そおっと目をあいて、それから大声で叫びました。
「こいつは、ブンレツだぞ。ブンレツ者だ。しばれ、しばれ。」と叫びました。すると相手のねずみは、まるでつぶてのようにクねずみに飛びかかってねずみの捕《と》り繩《なわ》を出して、クルクルしばってしまいました。
 クねずみはくやしくてくやしくてなみだが出ましたが、どうしてもかないそうがありませんでしたから、しばらくじっとしておりました。するとテねずみは紙切れを出してするするするっと何か書いて捕り手のねずみに渡しました。
 捕り手のねずみは、しばられてごろごろころがっているクねずみの前に来て、すてきにおごそかな声でそれを読みはじめました。
「クねずみはブンレツ者によりて、みんなの前にて暗殺すべし。」クねずみは声をあげてチュウチュウ泣きました。
「さあ、ブ
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