、いそがしく足ぶみをしました。
 窓の外の一本の木から、一つの雫《しずく》が見えていました。それは不思議にかすかな薔薇《ばら》いろをうつしていたのです。
(これは暁方《あけがた》の薔薇色《ばらいろ》ではない。南の蝎《さそり》の赤い光がうつったのだ。その証拠《しょうこ》にはまだ夜中にもならないのだ。雨さえ晴れたら出て行こう。街道の星あかりの中だ。次の町だってじきだろう。けれどもぬれた着物をまた引っかけて歩き出すのはずいぶんいやだ。いやだけれども仕方《しかた》ない。おれの百合は勝ったのだ。)
 ガドルフはしばらくの間、しんとして斯う考えました。
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●入力者注
※1 ハックニー=馬の種類。イギリス原産で、主に馬車用に使われた。
※2 顔料=亜砒酸を使った、毒性の強いパリグリーン(エメラルドグリーン)を指す。
※3 黒電気石=鉱石の1つ、「鉄電気石」を指す。ただし、角は六角。
※4 舎利=本来は釈迦の骨。ここでは仏舎利塔を指す。
※5 フラン=織物の1つ、フランネル。
※6 菫外線=紫外線。
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底本:「風の又三郎」角川文庫、角川書店
   1996(平成8)年6月25日発行改訂新版
底本の親本:「新校本 宮澤賢治全集」筑摩書房
   1995(平成7)年5月発行
入力:浜野智
校正:浜野智 
1999年2月5日公開
2003年6月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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