キーイキーイといびきをかいて寝《ね》てしまいました。
とのさまがえるはそこでにやりと笑って、いそいですっかり店をしめて、お酒の石油缶にはきちんと蓋《ふた》をしてしまいました。それから戸棚《とだな》からくさりかたびらを出して、頭から顔から足のさきまでちゃんと着込《きこ》んでしまいました。
それからテーブルと椅子《いす》をもって来て、きちんとすわり込みました。あまがえるはみんな、キーイキーイといびきをかいています。とのさまがえるはそこで小さなこしかけを一つ持って来て、自分の椅子の向う側に置きました。
それから棚から鉄の棒をおろして来て椅子へどっかり座《すわ》って一ばんはじのあまがえるの緑色のあたまをこつんとたたきました。
「おい。起きな。勘定《かんじょう》を払《はら》うんだよ。さあ。」
「キーイ、キーイ、クヮア、あ、痛い、誰《たれ》だい。ひとの頭を撲《なぐ》るやつは。」
「勘定を払いな。」
「あっ、そうそう。勘定はいくらになっていますか。」
「お前のは三百四十二杯で、八十五銭五厘だ。どうだ。払えるか。」
あまがえるは財布《さいふ》を出して見ましたが、三銭二厘しかありません。
「何だい。おまえは三銭二厘しかないのか。呆《あき》れたやつだ。さあどうするんだ。警察へ届けるよ。」
「許して下さい。許して下さい。」
「いいや、いかん。さあ払え。」
「ないんですよ。許して下さい。そのかわりあなたのけらいになりますから。」
「そうか。よかろう。それじゃお前はおれのけらいだぞ。」
「へい。仕方ありません。」
「よし、この中にはいれ。」
とのさまがえるは次の室《へや》の戸を開いてその閉口したあまがえるを押《お》し込んで、戸をぴたんとしめました。そしてにやりと笑って、又どっしりと椅子へ座りました。それから例の鉄の棒を持ち直して、二番目のあま蛙《がえる》の緑青《ろくしょう》いろの頭をこつんとたたいて云いました。
「おいおい。起きるんだよ。勘定だ勘定だ。」
「キーイ、キーイ、クワァ、ううい。もう一杯お呉れ。」
「何をねぼけてんだよ。起きるんだよ。目をさますんだよ。勘定だよ。」
「ううい、あああっ。ううい。何だい。なぜひとの頭をたたくんだい。」
「いつまでねぼけてんだよ。勘定を払え。勘定を。」
「あっ、そうそう。そうでしたね。いくらになりますか。」
「お前のは六百杯で、一円五十銭だよ。
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