来たりしていたもんだ。
 するとこんどは白象が、片脚《かたあし》床《ゆか》にあげたのだ。百姓どもはぎょっとした。それでも仕事が忙《いそが》しいし、かかり合ってはひどいから、そっちを見ずに、やっぱり稲を扱いていた。
 オツベルは奥《おく》のうすくらいところで両手をポケットから出して、も一度ちらっと象を見た。それからいかにも退屈《たいくつ》そうに、わざと大きなあくびをして、両手を頭のうしろに組んで、行ったり来たりやっていた。ところが象が威勢《いせい》よく、前肢《まえあし》二つつきだして、小屋にあがって来ようとする。百姓どもはぎくっとし、オツベルもすこしぎょっとして、大きな琥珀のパイプから、ふっとけむりをはきだした。それでもやっぱりしらないふうで、ゆっくりそこらをあるいていた。
 そしたらとうとう、象がのこのこ上って来た。そして器械の前のとこを、呑気《のんき》にあるきはじめたのだ。
 ところが何せ、器械はひどく廻《まわ》っていて、籾《もみ》は夕立か霰《あられ》のように、パチパチ象にあたるのだ。象はいかにもうるさいらしく、小さなその眼を細めていたが、またよく見ると、たしかに少しわらっていた。

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