たらかせるか、サーカス団に売りとばすか、どっちにしても万円以上もうけるぜ。

   第二日曜

 オツベルときたら大したもんだ。それにこの前稲扱小屋で、うまく自分のものにした、象もじっさい大したもんだ。力も二十馬力もある。第一みかけがまっ白で、牙《きば》はぜんたいきれいな象牙《ぞうげ》でできている。皮も全体、立派で丈夫《じょうぶ》な象皮なのだ。そしてずいぶんはたらくもんだ。けれどもそんなに稼《かせ》ぐのも、やっぱり主人が偉《えら》いのだ。
「おい、お前は時計は要《い》らないか。」丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめて斯う訊《き》いた。
「ぼくは時計は要らないよ。」象がわらって返事した。
「まあ持って見ろ、いいもんだ。」斯う言いながらオツベルは、ブリキでこさえた大きな時計を、象の首からぶらさげた。
「なかなかいいね。」象も云う。
「鎖《くさり》もなくちゃだめだろう。」オツベルときたら、百キロもある鎖をさ、その前肢にくっつけた。
「うん、なかなか鎖はいいね。」三あし歩いて象がいう。
「靴《くつ》をはいたらどうだろう。」
「ぼくは靴などはかないよ。」
「まあはいてみろ、いいもんだ。」オツベルは顔をしかめながら、赤い張子の大きな靴を、象のうしろのかかとにはめた。
「なかなかいいね。」象も云う。
「靴に飾《かざ》りをつけなくちゃ。」オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上から、穿《は》め込んだ。
「うん、なかなかいいね。」象は二あし歩いてみて、さもうれしそうにそう云った。
 次の日、ブリキの大きな時計と、やくざな紙の靴とはやぶけ、象は鎖と分銅だけで、大よろこびであるいて居《お》った。
「済まないが税金も高いから、今日はすこうし、川から水を汲《く》んでくれ。」オツベルは両手をうしろで組んで、顔をしかめて象に云う。
「ああ、ぼく水を汲んで来よう。もう何ばいでも汲んでやるよ。」
 象は眼を細くしてよろこんで、そのひるすぎに五十だけ、川から水を汲んで来た。そして菜っ葉の畑にかけた。
 夕方象は小屋に居て、十|把《ぱ》の藁《わら》をたべながら、西の三日の月を見て、
「ああ、稼《かせ》ぐのは愉快《ゆかい》だねえ、さっぱりするねえ」と云っていた。
「済まないが税金がまたあがる。今日は少うし森から、たきぎを運んでくれ」オツベルは房《ふさ》のつい
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