鳴っている、そこらいちめん鳴っている太陽マジックの歌をごらんなさい。
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(※[#ト音記号、51−1]‥‥‥
 ※[#ト音記号、51−2]‥‥‥
 コロナは八十三万五百
 ※[#ト音記号、51−4]‥‥‥
 ※[#ト音記号、51−5]‥‥‥                    )
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 まぶしい山の雪の反射《はんしゃ》です。わたくしがはたらきながら、また重《おも》いものをはこびながら、手で水をすくうことも考えることのできないときは、そこから白びかりが氷《こおり》のようにわたくしの咽喉《のど》に寄《よ》せてきて、こくっとわたくしの咽喉《のど》を鳴らし、すっかりなおしてしまうのです。それにいまならぼくたちの膝《ひざ》はまるで上等《じょうとう》のばねのようです。去年《きょねん》の秋のようにあんなつめたい風のなかなら仕事《しごと》もずいぶんひどかったのですけれども、いまならあんまり楽でただ少し肩《かた》の重苦《おもくる》しいのをこらえるだけです。それだって却《かえ》って胸《むね》があつくなっていい気持《きもち》なくらいです。
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(コロナは六十三万十五
 ※[#ト音記号、52−2]‥‥‥
 ※[#ト音記号、52−3]‥‥‥                    )
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 おおこまどり、鳴いて行く鳴いて行く、音譜《おんぷ》のように飛《と》んで行きます。赤い上着《うわぎ》でどこまで今日はかけて行くの。いいねえ、ほんとうに、
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かえれ、こまどり、アカシヤづくり。
赤の上着《うわぎ》に野やまを越《こ》えて
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(※[#ト音記号、52−8]‥‥‥
 ※[#ト音記号、52−9]‥‥‥
 コロナは三十七万二千
 ※[#ト音記号、52−11]‥‥‥                    )
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 そこの角から赤髪《あかげ》の子供《こども》がひとり、こっちをのぞいてわらっています。おい、大将《たいしょう》、証書《しょうしょ》はちゃんとしまったかい。筆記帳《ひっきちょう》には組と名前を楷書《かいしょ》で書いてしまったの。
 さあ、春だ、うたったり走ったり、とびあがったりするがいい。風野又三郎《かぜのまたさぶろう》だって、もうガラスのマントをひらひらさせ大よろこびで髪《かみ》をぱちゃぱちゃやりながら野はらを飛《と》んであるきながら春が来た、春が来たをうたっているよ。ほんとうにもう、走ったりうたったり、飛びあがったりするがいい。ぼくたちはいまいそがしいんだよ。
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(コロナは八万三千十九
 ※[#ト音記号、53−8]‥‥‥
 ※[#ト音記号、53−9]‥‥‥                    )
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 砂土《すなつち》がやわらかい匂《におい》の息《いき》をはいています。いままでやすんでいた虫どもが、ぼんやりといま眼《め》をさまし、しずかに息をするらしいのです。麦はつやつや光っています。雪の下からうまくとけて出て青い麦です。早く走って行こう、かけさえしたらすぐに麦は吸《す》い込《こ》むのだ。
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(コロナは八万三千十九)
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 わたくしたちが柄杓《ひしゃく》で肥《こえ》を麦にかければ、水はどうしてそんなにまだ力も入れないうちに水銀《すいぎん》のように青く光り、たまになって麦の上に飛びだすのでしょう、また砂土がどうしてあんなにのどの乾《かわ》いた子どもの水を呑《の》むように肥を吸い込むのでしょう。もうほんとうにそうでなければならないから、それがただひとつのみちだからひとりでどんどんそうなるのです。
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(コロナは十万八千二百
 ※[#ト音記号、54−7]‥‥‥
 ※[#ト音記号、54−8]‥‥‥                    )
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 こんどは帰りはわたくしたちは近みちをしてあの急《きゅう》な坂《さか》をのぼりましょう。あすこの坂なら杉《すぎ》の木が昆布《こんぶ》かびろうどのようです。阿部君《あべくん》、だまってそらを見ながらあるいていて一体何を見ているの。そうそう、青ぞらのあんな高いとこ、巻雲《けんうん》さえ浮《うか》びそうに見えるとこを、三羽の鷹《たか》かなにかの鳥が、それとも鶴《つる》かスワンでしょうか、三またの槍《やり》の穂《ほ》のようにはねをのばして白く光ってとんで行きます。
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(コロナは三十七万二百
 ※[#ト音記号、55−1]‥‥‥
 ※[#ト音記号、55−2]‥‥‥                    )
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 おや、
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