、ならしてアメリカに売る商売なんだ、こわいさうだよ。」
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田園紳士 一、山猫博士と握手する。
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「いや、今晩は。先日は失礼いたしました。」
山猫博士、「どうです、カンヤヒャウ問題もいよいよ落着ですな。」
紳士「えゝ、どうも大へんに不利なことになりました。」
(紳士云ひながらガラスのコップを二つ取ってファゼロとキュステに渡す。
紳士教師のコップに藁酒をつぐ。)
「あなたには何をあげませう。」
キュステ、「さうだね、葡萄水をおくれ。」
給仕「さうですか、坊ちゃんも。」
ファゼロ「うん。」給仕注ぐ。
(山猫博士、紳士と盃を合せ、酒をなめ横眼で二人を見ながら云ふ)「どうも水を呑むやつらが来ると広場も少ししらぱっくれるね。」
紳士四「えゝ、何せまだ子供ですから、それにそちらはたぶんカトリックの信者でいらっしゃいますから。」
山猫博士、「あゝ、カトリックですか。私も祖父がきついカトリックでしたがね。どうもいかんね、カトリックは。おい注いでくれ。」
(オーケストラはじまる。)
山猫博士「おいおいそいつでなしにキャッツホヰスカアといふやつをやってもらひたいな。」
楽長「冗談ぢゃない、猫のダンスなんて。」
山〔猫博士〕「やれ、〔〕やれ、やらんか。」
(オーケストラはじまる)
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みんなコップをおいて踊る。キュステも入る。山猫博士、調子はづれの声でオーケストラに合せながら、みんなの間を邪魔するやうに歩きまはる。猫の声の時はねあがる。近くのものにげる。ファゼロ立って口笛を吹く。衣裳係、帰って来る。キュステの脚絆解ける〔。〕誰かが云ふ。
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「もしもし脚絆が解けましたよ。」
(キュステ列を離れる。衣裳係が走って行ってそれを巻きながら云ふ。)
「どうも困りますぜ、こんな工合ぢゃ。それでも衣裳の整はないのがあっちゃ、こっちの失態ですしね、えゝ、どうもこんなこっちゃ困りますぜ。」
(曲変る。みんな踊りをやめる。コンフェットウをなげるもの、盃をあげるもの。)
牧者(一歩出る)「レディスアン、ゼントルメン、わたくしが一つ唱ひます。ええと、楽長さん。フローゼントリーのふしを一つねがひませんかな。」
指揮者「フローゼントリーなんてそんな古くさいもの知りませんな。」
楽手たち「そんなもの古くさいな。」
牧者「困ったな
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