とも。いや何と云っても大将はずるいもんですよ。みんなにも弱味があるから、まあこのまま泣寝入でさあ。ただまああの工場をこんどはみんなでいろいろに使って、できるだけお互いのいるものは拵えようというんです。」
「そうかねえ。」「ファゼーロが何かするのかい。」
「ええ、まあ別に新らしい資本がかかるわけでもなし、革をなめしたりハムを拵えたり、栗を蒸して乾かしたり、そんなことをいろいろやろうというんです。」
「さあもう行こう。」ファゼーロがわたくしをつっつきました。
「それじゃまた。」
「お休みなさい。」
 どうもデストゥパーゴの云ったのが本当か、みんなの云うのが本当か、これはどうもよくわからないと、わたくしはあるきだしながらおもいました。
「まっすぐだよ、まっすぐだよ。わたくしはあれからもう何べんも来てわかっているから。」
 わたくしはファゼーロの近くへ行って風の中で聞えるように云いました。ファゼーロはかすかにうなずいて、また走りだしました。夕暗のなかにその白いシャツばかりぼんやりゆれながら走りました。
 間もなくわたくしははるかな野原のはてに青白い五つばかりのあかりと、その上に青く傘のようにな
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