もうじきですから。」と云ってじぶんからおじぎをして行ってしまいました。
 わたくしはさびしさや心配で胸がいっぱいでした。そしてその晩から毎晩毎晩野原にファゼーロをさがしに出ました。日曜日にはひるも出ました。ことにこの前ファゼーロと別れた辺からテーモの家までの間に何か落ちてないかと思ってさがしたり、つめくさの花にデストゥパーゴやファゼーロのあしあとがついていないかと思って見てまわったり、デストゥパーゴの家から何か物音がきこえないかと思って幾晩も幾晩もそのまわりをあるいたりしました。
 前の二本の樺の木のあたりからポラーノの広場へも何べんも行きました。そのうちにつめくさの花はだんだん枯れて茶いろになり、ポラーノの広場のはんの木には、ちぎれて色のさめたモールが幾本かかかっているだけ、ミーロにさえも会いませんでした。警察からはあと呼び出しがありませんでしたので、こっちから出て行ってどうなったかきいたりしましたが警察ではファゼーロもデストゥパーゴも、まだ手がかりはないが心配もなかろうというようなことばかり云うのでした。そしてわたくしも、どういうわけか、なれたのですか、つかれたのですか、ファゼーロ
前へ 次へ
全95ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング