つの花にはそう思えばそうというような小さな茶いろの算用数字みたいなものが書いてありました。
「ミーロ、いくらだい。」
「一千二百五十六かな、いや一万七千五十八かなあ。」
「ぼくのは三千四百二十……六だよ。」
「そんなにはっきり書いてあるかねえ。」
 わたくしにはどうしても、そんなにはっきりは読むことができませんでした。けれども花のあかりは、あっちにもこっちにももうそこらいっぱいでした。
「三千八百六十六、五千まで数えればいいんだから、ポラーノの広場はもうじきそこらな筈なんだけれども。」
「だってさっぱりきみらの云うような、いい音はしないじゃないか。」
「いまに聞えるよ。こいつは二千五百五十六だ。」
「その数字を数えるというのはきっとだめだよ。」
 とうとうわたくしは云いました。
「どうして?」ファゼーロもミーロもまっすぐに立ってわたくしを見ています。
「なぜって第一わたしは花にそんな数字が書いてあるのでなくて、それはこっちの目のまちがいだろうと思うんだ。もしほんとうにいまにその音が聞えてきたら、まっすぐにそっちに行くのがいちばんいいだろうと思うんだ。とにかくもっとさきへ行ってようじゃな
前へ 次へ
全95ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング