れからどういうことになったか。」
 わたくしはそこであのポラーノの広場での出来事を全部話しました。一人はそれをどんどん書きとりました。警部が云いました。
「きみはファゼーロの居ないことをさっきまで知らなかったか。」
「はい。」
「何か証拠を挙げられるか。」
「はい、ええ、昨日と今日役所での仕事をごらん下さればわかります。わたくしはあれですっかりかたが着いたと思ってせいせいして働いていたのであります。」
「それも証拠にはならん。おい、君、白っぱくれるのもいい加減にしたまえ。テーモ氏から捜索願が出ているのだ。いま君がありかを云えば内分で済むのだ。でなけぁ、きみの為にならんぜ。」
「どうも全く知らないのです。まあ、あなたがたもご商売でしょうが、わたくしの声や顔付きをよくごらんください。これでおわかりにならんのですか。」わたくしは少ししゃくにさわって一息に云いました。
 すると二人はまた顔を見合せました。ええもうなるようになれとわたくしはまた云いました。
「なぜわたくしより前にデストゥパーゴを呼び出してくださらんのです。誰が考えてもファゼーロの居ないのはデストゥパーゴのしわざです。まさか殺しはしますまいが。」
「デストゥパーゴ氏は居らん。」
 わたくしはどきっとしました。ああファゼーロは本気かあるいは間ちがって殺されたのかもしれない。警部が云いました。
「お前の申し立てはいろいろの点でテーモ氏の申し立てとちがっている。しかしわれわれはそれは当然だろうと考える。いま調書を読むから君の云ったところとちがった所がないかよくききたまえ。」一人は読みはじめました。
「ちがいありません。」私はファゼーロのことを考えながら上の空で答えました。
「ここへ署名したまえ。」
 わたくしは書類のはじへ書きました。もうどうしても心配で心配でたまらなくなったのです。
「では帰ってよろしい。明日また呼ぶから。」警部は云いました。
 わたくしはたまらなくなりました。
「ファゼーロはどうしたんです。なぜデストゥパーゴをつかまえんのです。」
「それを君が云うことはならん。」
「だってファゼーロはどうしたんです。」
「そんなに心配なら君もさがしたまえ。さあ帰り給え。」
 二人はもう疲れて早くやめたいという風でした。わたくしはもうあかりのついていた警察署を夢中で飛びだしました。すると出口の桜の幹に、その青い夕方
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