いたほかのとりは、みんな目をさまして、ぶるぶるふるえながら、いぶかしそうにほしぞらを見あげました。
夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。もう山焼けの火はたばこの吸殻《すいがら》のくらいにしか見えません。よだかはのぼってのぼって行きました。
寒さにいきはむねに白く凍《こお》りました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。
それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜《しも》がまるで剣のようによだかを刺《さ》しました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これがよだかの最後でした。もうよだかは落ちているのか、のぼっているのか、さかさになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居《お》りました。
それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐《りん》の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。
すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。
そしてよだかの星は燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
今でもまだ燃えています。
底本:新潮文庫『新編 銀河鉄道の夜』
1989(平成元)年6月15日第1刷発行
1991(平成3)年3月10日4刷
親本:『新修 宮沢賢治全集』筑摩書房
入力:佐々木美香
校正:野口英司
1998年8月20日公開
1999年7月23日修正
青空文庫作成ファイル:
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