めえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ」
そのときは犬もすっかりしょげかえって眼を細くして座っていた。
何せこの犬ばかりは小十郎が四十の夏うち中みんな赤痢《せきり》にかかってとうとう小十郎の息子とその妻も死んだ中にぴんぴんして生きていたのだ。
それから小十郎はふところからとぎすまされた小刀を出して熊の顎《あご》のとこから胸から腹へかけて皮をすうっと裂いていくのだった。それからあとの景色は僕は大きらいだ。けれどもとにかくおしまい小十郎がまっ赤な熊の胆《い》をせなかの木のひつに入れて血で毛がぼとぼと房になった毛皮を谷であらってくるくるまるめせなかにしょって自分もぐんなりした風で谷を下って行くことだけはたしかなのだ。
小十郎はもう熊のことばだってわかるような気がした。ある年の春はやく山の木がまだ一本も青くならないころ小十郎は犬を連れて白沢をずうっとのぼった。夕方になって小十郎はばっかぃ沢へこえる峯《みね》になった処《ところ》へ去年の夏こさえた笹小屋《ささごや》へ泊ろうと思ってそこへのぼって行った。そしたらどういう加減か小十郎の柄にもなく
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