もなく小十郎の影は丘の向うへ沈んで見えなくなってしまい子供らは稗《ひえ》の藁《わら》でふじつきをして遊んだ。
小十郎は白沢の岸を溯《のぼ》って行った。水はまっ青に淵《ふち》になったり硝子《ガラス》板をしいたように凍ったりつららが何本も何本もじゅずのようになってかかったりそして両岸からは赤と黄いろのまゆみの実が花が咲いたようにのぞいたりした。小十郎は自分と犬との影法師がちらちら光り樺《かば》の幹の影といっしょに雪にかっきり藍《あい》いろの影になってうごくのを見ながら溯って行った。
白沢から峯を一つ越えたとこに一疋の大きなやつが棲《す》んでいたのを夏のうちにたずねておいたのだ。
小十郎は谷に入って来る小さな支流を五つ越えて何べんも何べんも右から左左から右へ水をわたって溯って行った。そこに小さな滝があった。小十郎はその滝のすぐ下から長根の方へかけてのぼりはじめた。雪はあんまりまばゆくて燃えているくらい。小十郎は眼がすっかり紫の眼鏡《めがね》をかけたような気がして登って行った。犬はやっぱりそんな崖《がけ》でも負けないというようにたびたび滑りそうになりながら雪にかじりついて登ったのだ。や
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