、やまねこがここを通らなかったかい。」
 滝がぴーぴー答えました。
「やまねこは、さっき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」
「おかしいな、西ならぼくのうちの方だ。けれども、まあも少し行ってみよう。ふえふき、ありがとう。」
 滝はまたもとのように笛を吹きつづけました。
 一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやっていました。
 一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、やまねこが、ここを通らなかったかい。」
とききました。するときのこは
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」とこたえました。一郎は首をひねりました。
「みなみならあっちの山のなかだ。おかしいな。まあもすこし行ってみよう。きのこ、ありがとう。」
 きのこはみんないそがしそうに、どってこどってこと、あのへんな楽隊をつづけました。
 一郎はまたすこし行きました。すると一本のくるみの木の梢《こずえ》を、栗鼠《りす》がぴょんととんでいました。一郎はすぐ手まねぎしてそれをとめて、
「おい、りす、やまねこがここを通らなかったかい。」
前へ 次へ
全15ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング