り出した。と思ふと、まるで山つなみのやうな音がして、一ぺんに夕立がやって来た。風までひゅうひゅう吹きだした。淵《ふち》の水には、大きなぶちぶちがたくさんできて、水だか石だかわからなくなってしまった。河原にあがった子どもらは、着物をかかへて、みんなねむの木の下へ遁げこんだ。ぼくも木からおりて、しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]といっしょに、向ふの河原へ泳ぎだした。そのとき、あのねむの木の方かどこか、烈《はげ》しい雨のなかから、
「雨はざあざあ ざっこざっこ、
 風はしゅうしゅう しゅっこしゅっこ[#「しゅっこしゅっこ」に傍点]。」
といふやうに叫んだものがあった。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、泳ぎながら、まるであわてて、何かに足を引っぱられるやうにして遁げた。ぼくもじっさいこはかった。やうやく、みんなのゐるねむのはやしについたとき、しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]はがたがたふるへながら、
「いま叫《さか》んだのはおまへらだか。」ときいた。
「そでない、そでない。」みんなは一しょに叫んだ。ぺ吉がまた一人出て来て、
「そでない。」と云った。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、気味悪さうに川のはうを見た。けれどもぼくは、みんなが叫んだのだとおもふ。



底本:「新修 宮沢賢治全集 第10巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年9月15日初版第1刷発行
   1983(昭和58)年4月20日初版第5刷発行
底本の親本:「校本宮澤賢治全集」筑摩書房
   1973(昭和48)年5月〜1977(昭和52)年10月初版発行
入力:田代信行
校正:伊藤時也
2000年4月15日公開
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