げてそりかえったり、頭や足をまるで天上に投げあげるようにしたり、一生けん命|踊《おど》りました。それにあわせてふくろうどもは、さっさっと銀いろのはねを、ひらいたりとじたりしました。じつにそれがうまく合ったのでした。月の光は真珠《しんじゅ》のように、すこしおぼろになり、柏の木大王もよろこんですぐうたいました。
「雨はざあざあ ざっざざざざざあ
風はどうどう どっどどどどどう
あられぱらぱらぱらぱらったたあ
雨はざあざあ ざっざざざざざあ」
「あっだめだ、霧《きり》が落ちてきた。」とふくろうの副官が高く叫びました。
なるほど月はもう青白い霧にかくされてしまってぼおっと円く見えるだけ、その霧はまるで矢のように林の中に降りてくるのでした。
柏《かしわ》の木はみんな度をうしなって、片脚《かたあし》をあげたり両手をそっちへのばしたり、眼をつりあげたりしたまま化石したようにつっ立ってしまいました。
冷たい霧がさっと清作の顔にかかりました。画《え》かきはもうどこへ行ったか赤いしゃっぽだけがほうり出してあって、自分はかげもかたちもありませんでした。
霧の中を飛ぶ術のまだできていないふくろうの、ばたばた遁《に》げて行く音がしました。
清作はそこで林を出ました。柏の木はみんな踊《おどり》のままの形で残念そうに横眼で清作を見送りました。
林を出てから空を見ますと、さっきまでお月さまのあったあたりはやっとぼんやりあかるくて、そこを黒い犬のような形の雲がかけて行き、林のずうっと向うの沼森のあたりから、
「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」と画かきが力いっぱい叫んでいる声がかすかにきこえました。
底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
1990(平成2)年5月25日発行
1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年2月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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