つ赤な眼のくまが、じつに奇体に見えました。よほどの年老《としよ》りらしいのでした。
「今晩は、大王どの、また高貴の客人がた、今晩はちやうどわれわれの方でも、飛び方と握《つか》み裂き術との大試験であつたのぢやが、たゞいまやつと終りましたぢや。
 ついてはこれから聯合《れんがふ》で、大乱舞会をはじめてはどうぢやらう。あまりにもたへなるうたのしらべが、われらのまどゐのなかにまで響いて来たによつて、このやうにまかり出ましたのぢや。」
「たへなるうたのしらべだと、畜生。」清作が叫びました。
 柏《かしは》の木大王がきこえないふりをして大きくうなづきました。
「よろしうござる。しごく結構でござらう。いざ、早速とりはじめるといたさうか。」
「されば、」梟《ふくろふ》の大将はみんなの方に向いてまるで黒砂糖のやうな甘つたるい声でうたひました。
「からすかんざゑもんは
 くろいあたまをくうらりくらり、
 とんびとうざゑもんは
 あぶら一升でとうろりとろり、
 そのくらやみはふくろふの
 いさみにいさむものゝふが
 みゝずをつかむときなるぞ
 ねとりを襲ふときなるぞ。」
 ふくろふどもはもうみんなばかのやうになつてどなりました。
「のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎおほん、
 おほん、おほん。」
 かしはの木大王が眉《まゆ》をひそめて云ひました。
「どうもきみたちのうたは下等ぢや。君子のきくべきものではない。」
 ふくろふの大将はへんな顔をしてしまひました。すると赤と白の綬《じゆ》をかけたふくろふの副官が笑つて云ひました。
「まあ、こんやはあんまり怒らないやうにいたしませう。うたもこんどは上等のをやりますから。みんな一しよにをどりませう。さあ木の方も鳥の方も用意いゝか。
 おつきさんおつきさん まんまるまるゝゝん
 おほしさんおほしさん ぴかりぴりるゝん
 かしははかんかの   かんからからゝゝん
 ふくろはのろづき   おつほゝゝゝゝゝん。」
 かしはの木は両手をあげてそりかへつたり、頭や足をまるで天上に投げあげるやうにしたり、一生けん命踊りました。それにあはせてふくろふどもは、さつさつと銀いろのはねを、ひらいたりとぢたりしました。じつにそれがうまく合つたのでした。月の光は真珠のやうに、すこしおぼろになり、柏の木大王もよろこんですぐうたひました。
「雨はざあざあ ざつざ
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