して下さいね。」
「あら、あたしこそ。あたしこそだわ。許して頂戴《ちゃうだい》。」
東の空の桔梗の花びらはもういつかしぼんだやうに力なくなり、朝の白光りがあらはれはじめました。星が一つづつ消えて行《ゆ》きます。
木の一番一番高い処《ところ》に居た二人のいてふの男の子が云ひました。
「そら、もう明るくなったぞ。嬉《うれ》しいなあ。僕はきっと黄金《きん》色のお星さまになるんだよ。」
「僕もなるよ。きっとこゝから落ちればすぐ北風が空へ連れてって呉れるだらうね。」
「僕は北風ぢゃないと思ふんだよ。北風は親切ぢゃないんだよ。僕はきっと烏《からす》さんだらうと思ふね。」
「さうだ。きっと烏さんだ。烏さんは偉いんだよ。こゝから遠くてまるで見えなくなるまで一息に飛んで行《ゆ》くんだからね。頼んだら僕ら二人位きっと一遍に青ぞら迄《まで》連れて行って呉れるぜ。」
「頼んで見ようか。早く来るといゝな。」
その少し下でもう二人が云ひました。
「僕は一番はじめに杏《あんず》の王様のお城をたづねるよ。そしてお姫様をさらって行ったばけ物を退治するんだ。そんなばけ物がきっとどこかにあるね。」
「うん。あるだらう。けれどもあぶないぢゃないか。ばけ物は大きいんだよ。僕たちなんか鼻でふっと吹き飛ばされちまふよ。」
「僕ね、いゝもの持ってるんだよ。だから大丈夫さ。見せようか。そら、ね。」
「これお母《っか》さんの髪でこさへた網ぢゃないの。」
「さうだよ。お母《っか》さんが下すったんだよ。何か恐ろしいことのあったときは此《こ》の中にかくれるんだって。僕ね、この網をふところに入れてばけ物に行ってね。もしもし。今日は、僕を呑《の》めますか呑めないでせう。とかう云ふんだよ。ばけ物は怒ってすぐ呑むだらう。僕はその時ばけ物の胃袋の中でこの網を出してね、すっかり被《かぶ》っちまふんだ。それからおなか中をめっちゃめちゃにこはしちまふんだよ。そら、ばけ物はチブスになって死ぬだらう。そこで僕は出て来て杏のお姫様を連れてお城に帰るんだ。そしてお姫様を貰《もら》ふんだよ。」
「本当にいゝね、そんならその時僕はお客様になって行ってもいゝだらう。」
「いゝともさ。僕、国を半分わけてあげるよ。それからお母《っか》さんへは毎日お菓子やなんか沢山あげるんだ。」
星がすっかり消えました。東のそらは白く燃えてゐるやうです。木が俄《には
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