中佐《ちゅうさ》どのにお目にかかる。それからおまえはうんと走って陸地測量部《りくちそくりょうぶ》まで行くんだ。そして二人ともこう言《い》うんだ。北緯《ほくい》二十五|度《ど》東経《とうけい》六|厘《りん》の処《ところ》に、目的《もくてき》のわからない大きな工事《こうじ》ができましたとな。二人とも言ってごらん」
「北緯《ほくい》二十五|度《ど》東経《とうけい》六|厘《りん》の処《ところ》に目的《もくてき》のわからない大きな工事《こうじ》ができました」
「そうだ。では早く。そのうち私は決《けっ》してここを離《はな》れないから」
蟻《あり》の子供《こども》らはいちもくさんにかけて行きます。
歩哨《ほしょう》は剣をかまえて、じっとそのまっしろな太い柱《はしら》の、大きな屋根《やね》のある工事をにらみつけています。
それはだんだん大きくなるようです。だいいち輪廓《りんかく》のぼんやり白く光ってぶるぶるぶるぶるふるえていることでもわかります。
にわかにぱっと暗《くら》くなり、そこらの苔《こけ》はぐらぐらゆれ、蟻《あり》の歩哨《ほしょう》は夢中《むちゅう》で頭をかかえました。眼《め》をひらいてまた見ますと、あのまっ白な建物《たてもの》は、柱が折《お》れてすっかり引っくり返《かえ》っています。
蟻の子供らが両方《りょうほう》から帰ってきました。
「兵隊《へいたい》さん。かまわないそうだよ。あれはきのこというものだって。なんでもないって。アルキル中佐《ちゅうさ》はうんと笑《わら》ったよ。それからぼくをほめたよ」
「あのね、すぐなくなるって。地図に入れなくてもいいって。あんなもの地図に入れたり消《け》したりしていたら、陸地測量部《りくちそくりょうぶ》など百あっても足りないって。おや! 引っくりかえってらあ」
「たったいま倒《たお》れたんだ」歩哨は少しきまり悪《わる》そうに言《い》いました。
「なあんだ。あっ。あんなやつも出て来たぞ」
向《む》こうに魚の骨《ほね》の形をした灰《はい》いろのおかしなきのこが、とぼけたように光りながら、枝《えだ》がついたり手が出たりだんだん地面《じめん》からのびあがってきます。二|疋《ひき》の蟻《あり》の子供らは、それを指《ゆび》さして、笑《わら》って笑って笑います。
そのとき霧《きり》の向《む》こうから、大きな赤い日がのぼり、羊歯《しだ》もす
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