《オートま》ぎすか)
  (あんいま向《もご》でやつてら)
この爺《ぢい》さんはなにか向ふを畏れてゐる
ひじやうに恐ろしくひどいことが
そつちにあるとおもつてゐる
そこには馬のつかない廐肥車《こやしぐるま》と
けはしく翔ける鼠いろの雲ばかり
こはがつてゐるのは
やつぱりあの蒼鉛《さうえん》の労働なのか
  (こやし入れだのすか
   堆肥《たいひ》ど過燐酸《くわりんさん》どすか)
  (あんさうす)
  (ずゐぶん気持のいゝ処《どご》だもな)
  (ふう)
この人はわたくしとはなすのを
なにか大へんはばかつてゐる
それはふたつのくるまのよこ
はたけのをはりの天末線《スカイライン》
ぐらぐらの空のこつち側を
すこし猫背《ねこぜ》でせいの高い
くろい外套の男が
雨雲に銃を構へて立つてゐる
あの男がどこか気がへんで
急に鉄砲をこつちへ向けるのか
あるいは Miss Robin たちのことか
それとも両方いつしよなのか
どつちも心配しないでくれ
わたしはどつちもこはくない
やつてるやつてるそらで鳥が
 (あの鳥何て云ふす 此処らで)
 (ぶどしぎ)
 (ぶどしぎて云ふのか)
 (あん 曇るづど
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