くなつて
眩ゆい芝生《しばふ》がいつぱいいつぱいにひらけるのは
さうとも 銀杏並樹《いてふなみき》なら
もう二哩もうしろになり
野の緑青《ろくしやう》の縞のなかで
あさの練兵をやつてゐる
うらうら湧きあがる昧爽《まいさう》のよろこび
氷ひばりも啼いてゐる
そのすきとほつたきれいななみは
そらのぜんたいにさへ
かなりの影《えい》きやうをあたへるのだ
すなはち雲がだんだんあをい虚空に融けて
たうとういまは
ころころまるめられたパラフヰンの団子《だんご》になつて
ぽつかりぽつかりしづかにうかぶ
地平線はしきりにゆすれ
むかふを鼻のあかい灰いろの紳士が
うまぐらゐあるまつ白な犬をつれて
あるいてゐることはじつに明らかだ
 (やあ こんにちは)
 (いや いゝおてんきですな)
 (どちらへ ごさんぽですか
  なるほど ふんふん ときにさくじつ
  ゾンネンタールが没《な》くなつたさうですが
  おききでしたか)
 (いゝえ ちつとも
  ゾンネンタールと はてな)
 (りんごが中《あた》つたのださうです)
 (りんご ああ なるほど
  それはあすこにみえるりんごでせう)
はるかに湛《たた》へ
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