険しい天光《てんくわう》に立つといふだけです
鳥も棲んではゐますけれど
[#地付き](一九二二、八、一七)
[#改ページ]
原体剣舞連《はらたいけんばひれん》
(mental sketch modified)
dah−dah−dah−dah−dah−sko−dah−dah
こんや異装《いさう》のげん月のした
鶏《とり》の黒尾を頭巾《づきん》にかざり
片刃《かたは》の太刀をひらめかす
原体《はらたい》村の舞手《をどりこ》たちよ
鴾《とき》いろのはるの樹液《じゆえき》を
アルペン農の辛酸《しんさん》に投げ
生《せい》しののめの草いろの火を
高原の風とひかりにさゝげ
菩提樹皮《まだかは》と縄とをまとふ
気圏の戦士わが朋《とも》たちよ
青らみわたる※[#「景+頁」、第3水準1−94−5]気《かうき》をふかみ
楢と椈《ぶな》とのうれひをあつめ
蛇紋山地《じやもんさんち》に篝《かがり》をかかげ
ひのきの髪をうちゆすり
まるめろの匂のそらに
あたらしい星雲を燃せ
dah−dah−sko−dah−dah
肌膚《きふ》を腐植と土にけづらせ
筋骨はつめたい炭酸に粗《あら》び
月月《つきづき》に日光と風とを焦慮し
敬虔に年を累《かさ》ねた師父《しふ》たちよ
こんや銀河と森とのまつり
准《じゆん》平原の天末線《てんまつせん》に
さらにも強く鼓を鳴らし
うす月の雲をどよませ
Ho! Ho! Ho!
むかし達谷《たつた》の悪路王《あくろわう》
まつくらくらの二里の洞《ほら》
わたるは夢と黒夜神《こくやじん》
首は刻まれ漬けられ
アンドロメダもかゞりにゆすれ
青い仮面《めん》このこけおどし
太刀を浴びてはいつぷかぷ
夜風の底の蜘蛛《くも》をどり
胃袋はいてぎつたぎた
dah−dah−dah−dah−dah−sko−dah−dah
さらにただしく刃《やいば》を合《あ》はせ
霹靂《へきれき》の青火をくだし
四方《しはう》の夜《よる》の鬼神《きじん》をまねき
樹液《じゆえき》もふるふこの夜《よ》さひとよ
赤ひたたれを地にひるがへし
雹雲《ひよううん》と風とをまつれ
dah−dah−dah−dahh
夜風《よかぜ》とどろきひのきはみだれ
月は射《い》そそぐ銀の矢並
打つも果《は》てるも火花のいのち
太刀の軋《きし》りの消えぬひま
dah−dah−dah−dah−dah−sko−dah−dah
太刀は稲妻萱穂《いなづまかやぼ》のさやぎ
獅子の星座《せいざ》に散る火の雨の
消えてあとない天《あま》のがはら
打つも果てるもひとつのいのち
dah−dah−dah−dah−dah−sko−dah−dah
[#地付き]※[#始め二重パーレン、1−2−54]一九二二、八、三一※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
[#改ページ]
グランド電柱
あめと雲とが地面に垂れ
すすきの赤い穂も洗はれ
野原はすがすがしくなつたので
花巻《はなまき》グランド電柱《でんちゆう》の
百の碍子《がいし》にあつまる雀
掠奪のために田にはひり
うるうるうるうると飛び
雲と雨とのひかりのなかを
すばやく花巻大三叉路《はなまきだいさんさろ》の
百の碍子にもどる雀
[#地付き](一九二二、九、七)
[#改ページ]
山巡査
おお
何といふ立派な楢だ
緑の勲爵士《ナイト》だ
雨にぬれてまつすぐに立つ緑の勲爵士《ナイト》だ
栗の木ばやしの青いくらがりに
しぶきや雨にびしやびしや洗はれてゐる
その長いものは一体舟か
それともそりか
あんまりロシヤふうだよ
沼に生えるものはやなぎやサラド
きれいな蘆《よし》のサラドだ
[#地付き](一九二二、九、七)
[#改ページ]
電線工夫
でんしんばしらの気まぐれ碍子の修繕者
雲とあめとの下のあなたに忠告いたします
それではあんまりアラビアンナイト型です
からだをそんなに黒くかつきり鍵にまげ
外套の裾もぬれてあやしく垂れ
ひどく手先を動かすでもないその修繕は
あんまりアラビアンナイト型です
あいつは悪魔のためにあの上に
つけられたのだと云はれたとき
どうあなたは弁解をするつもりです
[#地付き](一九二二、九、七)
[#改ページ]
たび人
あめの稲田の中を行くもの
海坊主林《うみばうずばやし》のはうへ急ぐもの
雲と山との陰気のなかへ歩くもの
もつと合羽をしつかりしめろ
[#地付き](一九二二、九、七)
[#改ページ]
竹と楢
煩悶《はんもん》ですか
煩悶ならば
雨の降るとき
竹と楢《なら》との林の中がいいのです
(おまへこそ髪を刈れ)
竹と楢との青い林の中がいいのです
(おまへこそ髪を
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