かちがった処へ行ったおまへが
どんなに私にかなしいか。
「あれは鯨と同じです。けだものです。」
くるみ色に塗られた排気筒の
下に座って日に当ってゐると
私は印度の移民です。
船酔ひに青ざめた中学生は
も少し大きな学校に居る兄や
いとこに連れられてふらふら通り
私が眼をとぢるときは
にせもののピンクの通信が新らしく空から来る。
二等甲板の船艙の
つるつる光る白い壁に
黒いかつぎのカトリックの尼さんが
緑の円い瞳をそらに投げて
竹の編棒をつかってゐる。
それから水兵服の船員が
ブラスのてすりを拭いて来る。
[#地付き](一九二三ヽ八ヽ一ヽ)
[#改ページ]
駒ヶ岳
弱々しく白いそらにのびあがり
その無遠慮な火山礫の盛りあがり
黒く削られたのは溶けたものの古いもの
(喬木帯灌木帯、苔蘇帯といふやうなことは
まるっきり偶然のことなんだ。三千六百五十尺)
いまその赭い岩巓に
一抹の傘雲がかかる。
(In the good summer time, In the good summer time;)
※[#始め二重パーレン、1−2−54]ごらんなさい。
その赭いやつの裾野は
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