そのまゝ沈んでしまつた。考へてみると、あの海亀のおかげで、おまへは鱶の顎《あご》をのがれることが出来たのだ」
と、お父さんがいひました。
 今太郎君が鱶に突かれて尻餅《しりもち》をついたのは、ちやうどそこにゐた海亀の背の上だつたのです。だから、海の底が動くと思つたわけです。そして、今太郎君は気絶した後も、亀の甲羅《かうら》をしつかりつかんで放さなかつたので、とうとう水面まで一緒に浮上つて来たのでした。
 これだけの話をお父さんに聞かされたとき、今太郎君は不思議さうにきゝました。
「ぢや、去年|僕《ぼく》が助けてやつた亀が、今度は僕を助けてくれたんでせうか」
「さアどうだらうかね」と、お父さんは笑つて言ひました。「去年の亀はチヤブ台ほどの大きさで、今年のは貨物自動車ほどもあつたからね」
「去年のが、そんなに大きくなつたのではないでせうか」
「いや、海亀は僅《わづ》か一年ばかりのうちにそんなに大きくなるものぢやないよ」
「それぢや、きつと去年の亀の親でせう」
「ハハハ、成程、子が受けた恩を、親がかはつて返したつてわけか。或《あるひ》はさうかも知れないね。実際、あの亀がお前を背に乗せて、水面
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