ない場合にせまりました。で、豆小僧はも一つ大般若のお守札を出して、ほふり出すと、たちまちそこに高い/\、天までとどくやうな高い塀《へい》が出来ました。
悪魔はきり/\歯がみをして、しばらくその塀を睨んでゐましたが、何やら呪文《じゆもん》をとなへると、すぐその指の尖《さき》が章魚《たこ》の疣《いぼ》のやうになつたので、それでべた/\と壁に吸ひついて、その塀をのりこえて、また豆小僧のあとを追ひました。
四
又、もう二足三足で、豆小僧は悪魔におさへられようとする、あぶない目にあひましたので、今度は三枚目の大般若《だいはんにや》のお守札をそこへ投げました。
すると、豆小僧と悪魔との間に、さつと一つの大きな/\川が出来ました。
悪魔はもう一歩と、足を出しかけたところへ、急に、大きな川が出来たものですから、はづみをくらつて、あぶなくその川のなかへおち込むところでした。
川には水がまん/\とたたへて、その流れの早いことは、浮いてゐる塵《ちり》や芥《あくた》が矢を射るより早く流れ去るのを見ても分りました。おまけに、向ふ岸まで一たい何里あるか分らないほどの広さでした。
さすがの悪魔もぼんやりとして、そこに立つたきり、呆《あき》れてみてゐましたが、たちまち何やら呪文《じゆもん》をとなへると、大きな魚の形になつて、ざあ/\浪《なみ》を立てながら、その広い川をまたたくうちに泳ぎきつて、向うへ渡つてしまひました。
もうお寺はすぐ前に見えてをります。豆小僧は、一生懸命、ちよこ/\と走りますが、何しろ、小股《こまた》で走るので、はかどりません。ぐづ/\してゐるうち、大川を渡つた悪魔が直《す》ぐ追ひついて、もう二足三足で、襟《えり》がみをつかまうとするまでに近く、迫りました。
豆小僧は今度こそと、四枚目の大般若のお守札をほうりますと、土の中からポツと火が出て、そこらぢう一面に焔《ほのお》となりました。
悪魔は不意を打たれて、手やら足やら顔やら焼傷《やけど》をしました。けれども、そんなことには閉口しません。何やら口で呪文をとなへますと、さすがに燃えさかつた火も見る/\消えて、あとには、只《ただ》炭と灰とだけが残りました。
「こんどは逃がさんぞ!」
悪魔は大風の吹くやうな凄《すご》い音を出して豆小僧を追ひかけました。
「和尚さん助けて、あれ/\、悪魔が来ます、追つかけ
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング